【歴史の小窓(15・最終回)】歴史にどう向き合ったらいいのだろうか

偽書と疑われるものを前にして

  •  1991年に開館した墨俣一夜城(墨俣歴史資料館)=岐阜県大垣市
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 作家杉本苑子さんの小説に、豊臣秀吉の姉の目を通して一族の崩壊を描いた「影の系譜」がある。もともとは「北政所お寧々(ねね)」という題名で1978年から雑誌に連載され、81年8月に文芸春秋から単行本として出版された際に「影の系譜」と変えた。理由の一つとして、その年にNHK大河ドラマ「おんな太閤記」が始まったため、便乗したと受け取られるのが嫌だったからと「あとがき」に書いている。この「あとがき」は6ページという異例の長さで、そのほとんどを使って歴史に対する自身の心構えについて書いているのが興味深い。

 小説には秀吉の妹「旭姫」が登場するが、旭姫という名前は、前夫と離別させられて徳川家康と政略結婚させられたときから使われる名前で、それまでの名前は伝わっていない。そこで杉本さんは彼女に「きい」という名前を考え、前夫を「村のお百姓の嘉助」として小説を書き進めた。「きい」も「嘉助」も杉本さんが創作した名前なのに、テレビで「おんな太閤記」が始まると、2人が同じ名前で登場し、27万部を売り尽くしたというドラマのガイドブックにも記載されていることを知る。

 当惑した杉本さんが、脚本を書いた橋田寿賀子さんに連...

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