「いつ、どこで、誰と、この芸術祭を見たのか。それによって芸術祭の経験が大きく変わってしまう、そんな芸術祭のあり方を考えました」
「さいたま国際芸術祭2023」のメディア向け説明会で、ディレクターの南川憲二の言葉にハッとした。コンサートや演劇であれば、いつどこで見たかということが非常に重要で、作品との出会いは一期一会だということは身にしみて知っている。けれど、美術展はいつ見に行っても同じだと思っていた。芸術祭はそうではなかったのか。会場が広いから、どこを回って何を見たかは人によって違うはずだが、どこか美術展の延長のように考えていたのかもしれない。南川は続けて、こうも言った。
「その日、その時、そこにいることを選んだ鑑賞者自身の行動、行為によって見え方が生まれていってしまう。一人一人に固有の鑑賞体験が生まれる。そんな芸術祭にしたい」
「一回性」という言葉が頭に浮かんだ。それは芸術の原点でもある。
ならば、あえて書こう。それは、10月6日金曜日午後のことだった。私は「さいたま国際芸術祭2023」のメイン会場(旧市民会館おおみや)に行ってディレクターらの説明を聞き、そのあとの内覧会に参加した...