すばる文学賞を受賞した新人作家・大田ステファニー歓人の「みどりいせき」が発刊され、大きな話題を呼んでいる。これは、自分の子どもや孫を理解したいと思う人、「いまどきの若者」について知りたいと考える人は、一読すべき作品であろう。
1995年生まれ、20代の大田が東京郊外に住む高校生たちの日常を描いたこの作品は、とにかく文体が独特で最初は面食らう。話し言葉か書き言葉か、一般名詞か固有名詞かといった区別はいっさいなく、主人公の目に映るものや脳内に浮かぶことがすさまじい密度で言葉として重ねられていく。冒頭近くの一部を引用しよう。
「昨日はにんにく食べ過ぎちゃったし、嗚咽(おえつ)がちょびっと臭うかもだけど、どうせみんなマスクのまんま大人んなるから関係ない。避難扉には<常時は立ち入り禁止>とカッティングシートが貼られている。ジョージ? あぁ、はいはい、僕もジェントリー・ウィープス。」
ここで「何を言いたいかわからない」と投げ出さずに読み進めていくうちに、その背景にある主人公の状況がぼんやり浮かび上がってくる。父親が亡くなり母親とふたり暮らし、学校やアルバイトをがんばるつもりでいながらも、自分の居...