落語には四季折々、季節モノの噺がある。夏は冷たいそばを食べる「そば清」や花火をテーマにした「たがや」、いろいろな場面で暑さが描かれる「船徳」など。秋は、食欲の秋というだけあって「目黒の秋刀魚(さんま)」など食べ物が出てくる噺。冬になると、雪の風景が出てくる「雪とん」や、寒さを感じながら屋台で温かいそばやうどんをすする「時そば」「うどんや」に、年の瀬が舞台の「文七元結」「芝浜」「掛け取り」…。
春はというとやはりお花見で、有名どころは「長屋の花見」「花見の仇討(あだう)ち」「花見酒」だ。
東京の桜の開花は、今年は3月20日ごろという予想が出ている。われわれ噺家は何かにつけ先取り先取りで物事を考える。着物にしても、われわれは春の4月を過ぎて5月ごろになり、お天気もだんだん暖かくなってくると、長着を袷(あわせ)から単(ひとえ)に替え、羽織も夏物になっていく。中には5月で夏物の長着を着るという人も少なくない。
季節モノの噺にしても開花を待っていたら演(や)る期間が短くなってしまうので、冬から春に移り変わるちょっと前から、時期でいうと2月に入ったくらいから、春のお噺をみんな演り始める。気の早い...