表紙の写真に見入った。誰も乗っていない小舟が水の上に停留していて、水辺から土手の方に続く簡素な階段が写っている。舟を下りて、誰かがその階段を上がっていったのだろうか。水面には色とりどりの葉が浮いていて、空もうっすら映っている。両岸の草の緑色を基調とする穏やかな作品なのだが、明るい雰囲気というか、前向きな空気が伝わってくる。
本を開いて確認した。この写真のタイトルは「ながいながい旅路」。キャプションにこう書かれていた。「乾いたあたたかい香り/ここからは/少し歩いてみるつもり」(2022年、マリア36歳)
写真集「What Became Visible After STANDing Still その後 佇んで、見えたもの」。プロジェクト「STAND Stillー性暴力サバイバービジュアルボイス」の作品集だ。19年から23年までの5年にわたるワークショップの成果、86点が収録されている。
■佇む
始まりは19年7月だった。フォトジャーナリストの大藪順子(おおやぶ・のぶこ)が横浜市内で、性暴力サバイバーを集めて写真のワークショップを開いた。集まったのは8人の女性たち。参加者は6回のワークショ...