【名作文学と音楽(20)】曲名に秘密ありやなしや

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  •  『キャラコさん』所収の久生十蘭全集第7巻(三一書房)
  •  神武夏子(ピアノ)がフランス6人組の作品を演奏したアルバム『カフェ・デ・シス』

 久生十蘭(ひさお・じゅうらん、1902~1957)は、探偵小説から捕物帖、伝奇小説、海外生活ものまで、縦横無尽に筆を揮った。その作品目録の中に、若く聡明な女性を主人公にしたハート・ウォーミングな連作小説『キャラコさん』がある。雑誌『新青年』への掲載、春陽堂からの刊行はともに1939年。さまざまな音楽が物語を色づけし、唱歌、童謡、ジャズ、カントリーに加えて、エリック・サティやダリウス・ミヨ-、ジョルジュ・オーリックといったフランス現代作曲家の名前も顔を出す。

 <キャラコさん>とは何者だろう。本名は石井剛子(つよこ)だが、キャラコ(綿布の一種)のシュミーズを着ているのを、贅沢育ちの従姉妹、槇子と摩耶子が発見し、揶揄してつけた呼び名が定着した。退役陸軍少将石井長六閣下の末娘で、今年19歳。身長5尺4寸(163センチ余り)の健康的な体つきをしている。しっかりした考えを持ち、自己流ながらピアノを達者に弾き、よい声で唄うことができる。メリメの小説『コロンバ』を読むような文学趣味もある。

 第1話『社交室』から見ていこう。キャラコさんは従姉妹の母である沼間(ぬま)夫人に誘われ、少し前から川奈の国際観...

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