【名作文学と音楽(24)】タンゴを忘れるな

遠田潤子『オブリヴィオン』、五木寛之『夜明けのタンゴ』

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 丸谷才一は元来クラシック党で、それ以外の音楽はピンと来なかったが、タンゴの鬼才、アストル・ピアソラの曲は夢中になって聴いていると、エッセイ『バンドネオン』の中で述べている。クラシック界のスター・ヴァイオリニスト、ギドン・クレーメルがジャンルを越えて取り組んだCD『ピアソラへのオマージュ』をジャケ買いし、引き込まれたのだという(ジャケットのデザインは踊る男女の脚)。そのアルバムにも収録されているピアソラの曲の一つを題名にし、また作中で大きな役割を担わせているのが、遠田潤子(1966~)の『オブリヴィオン』。(2017年)。現在は光文社文庫に入っている。

 小説に入る前に、ピアソラのことを少しばかり。人名辞典風に言えば、タンゴの異端児、革命児、破壊者などと様々に呼ばれた1921年生まれのバンドネオン奏者、作曲家である。アルゼンチン生まれだが、少年時代をニューヨークで過ごしている。モダンジャズやクラシックから学んだものをタンゴに持ち込み、独自の刺激的な音楽を作り上げた。1990年代後半からは、前述のクレーメルやチェロ奏者のヨーヨー・マがピアソラ作品のアルバムを録音してクラシック界に<ピアソラ...

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