8月1日、落語界の偉人がまた一人、天国へと旅立った。昭和の大スター桂米丸師匠である。生まれは大正、享年は100歳という最長老の米丸師匠。新型コロナウイルス流行もあり晩年、寄席や落語会はお休みされ、私はここ数年お会いする機会がなかったが、「とにかく元気で、誕生日にお電話をすると、よく通る声で一切電話を切るそぶりもなく、長電話になるんだよ!」というようなことを二番弟子である桂米助師匠から伺っていた。
米丸師匠はとにかくカッコよかった。何がカッコよかったのか、私が影響を受けたのは大きく二つ。それは芸に対する姿勢と常に見られているという美意識だった。
私が入門をした時の米丸師匠のお年は79歳か80歳。生まれた時代を考えると大柄だった師匠の背筋は、80歳にしてピシッと伸びていた。そんなおじいちゃんが寄席の楽屋にパリッとした薄いグレーのエルメスのスーツにハットをかぶりやってくる。その姿の美しいこと! 背広を受け取ると裏には刺しゅうで「桂米丸」と入っている。エルメスのスーツが着られればもういいだろう!と思うが、師匠にとってはフランスのブランドより桂米丸の方が名ブランドなのだ! シャツ一枚一枚もオー...