【名作文学と音楽(25)】タンゴは乱歩によく似合う?

五木寛之『遥かなるカミニト』、久世光彦『一九三四年冬――乱歩』

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 五木寛之(1932~)は、前回のコラムで取り上げた『夜明けのタンゴ』(1980年)の5年前に、やはりタンゴを題材にした小説『遥かなるカミニト』を書いている。前者がハッピーエンドだったのと対照的に、後者の味わいは苦さを含んでいる。

 学生時代に同じ下宿で暮らした写真家の秋山と商社員の早田が、ブエノスアイレスで再会するところから小説は始まる。広告の仕事で訪れた秋山を世話することになった現地駐在員が、偶然にも旧友の早田だった。この出会いはさらりと語られ、すぐに彼らの学生時代へと時間が巻き戻される。

 秋山と早田は昭和28年、つまり1953年の春、地方から上京して大学に入った。下宿を追い出されそうになっていた秋山が、たまたま同居人を探していた早田と学生食堂で知り合ったのが付き合いの始まり。翌週から日当たりの悪い四畳半で同居することになった。

 ある時、食事のあとで秋山が早田を喫茶店に誘った。「どこか音楽がある所がいいな」という返事だったので、秋山は「それじゃ、<らんぶる>に行くか」と提案する。しかし、早田はそれに難色を示した。「あすこは重っ苦しくてね。どうも消化によくないんじゃないのかな」。「重っ...

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