家族の非業の死について関係者に直接、訴える機会がついにやって来た。原稿を書いて入念に練習し、その場に臨む。話し出すと胸がつまり、練習のようにスムーズに話せない。それでも精いっぱい話していると、運営者から「時間なのでまとめて」と声をかけられる。次の言葉を口にすると、そばから「マイクが切られてる」と言われて、声が届いていないことに気づかされる…。
まるで悪夢のような話だが、5月1日に水俣病被害者団体と伊藤環境相らとの懇談の席で実際に起きたことだ。各団体3分の予定時間の終了とほぼ同時に被害者側が発言中にもかかわらずマイクの音を絞ったのは、環境省の事務方であった。8日になって環境相と司会を務めた環境省職員が水俣市に謝罪に出向いたが、発言半ばで音声を絞られた人たちの無念さや屈辱は簡単には晴れないだろう。
私は6年ほど前、水俣病センター相思社を訪れたことがあるが、そこの資料館で70年代に患者に届いた数枚のハガキのことが忘れられない。ハガキには「ニセ患者」「水俣病御殿」など、公害病である水俣病の認定を金目当てだとする誹謗(ひぼう)中傷の言葉が並んでいた。センターの職員によると、明らかに症状があるの...