世界を驚かせたトランプ氏銃撃事件だが、その後、開催されたアメリカ・共和党の全国大会にも驚かされた。上院議員のJ.D.バンス氏が副大統領候補として指名されたのだ。
その名前を知らなくても、2017年に邦訳が出た『ヒルビリー・エレジー』の著者だと聞けば「ああ、あの本か」と反応する人がいるのではないか。世界でベストセラーとなった同書は日本でも多くの人に読まれた。
本書は回顧録の形を取っている。バンス氏は「ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれるオハイオ州ミドルタウンで生まれ育つ。家庭は貧困をきわめ、コミュニティーは崩壊、地域全体が荒廃している。高校卒業後、大学に進まずに海兵隊に入隊、イラクに派兵されて帰還後、さまざまな偶然も重なり、大学進学への道が開ける。そして名門校のイェール大学ロースクールを卒業、シリコンバレーで社長を務めるまでになるのだ。
自らはエリートの仲間入りをしたバンス氏だが、彼は決して「だからみんなもがんばって」とシンプルなエールを送ろうとはしない。タイトルに「エレジー(哀歌)」とある通り、本書には故郷への郷愁とともに、解決策の乏しさへの絶望、当時の福祉政策の無効性へ...