被写体の「明日の幸せ」をそっと願って撮り続け、半世紀を超えた写真家のハービー・山口さんが、著名人を活写したカットを紹介。撮影秘話や心の交流を振り返る連載の最終回。
× ×
「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」のメンバーで「教授」の愛称で親しまれた音楽家の坂本龍一。常に相手と最高のセッションを追い求め、自身の振る舞いを考える人だった。
2020年12月、東京都世田谷区の人見記念講堂で「大貫妙子シンフォニックコンサート2020」が開かれ、坂本がゲスト出演した。私が坂本を撮影するのは三十数年ぶりだった。
本番では大貫と和やかにトークし、楽曲「Tango」「色彩都市」の2曲でピアノを奏でた。大貫の情緒豊かな歌声に、オーケストラの迫力ある演奏と坂本の繊細なピアノの音色が加わり、深みがあった。
公演が終了し、坂本のタクシーが到着。私にも笑顔で「じゃあね」と手を振ってくれた。坂本はドアを開けて1歩先に進もうとする時、どういう訳か壁に左手を2、3秒ほど置いていた。「ハービー、撮るんだ!」というバイブレーションを私は感じ、慌ててピントを合わせてその手を収めた。
これが坂本との最後...