先日閉幕したパリ五輪の開会式では、開催地フランスのマクロン大統領が開会を宣言しました。オリンピック憲章の規定には、「開催地の国の国家元首が(中略)開会を宣言する」と書かれています。開会を宣言するのは、その国の「元首」だというのです。
2021年の東京五輪を思い出してください。誰が開会式に出席し、開会を宣言したのでしょうか? 記憶に新しいかもしれませんが、それは総理大臣ではなく、天皇でした。
では、天皇は日本の「国家元首」なのでしょうか。この疑問への答えは簡単ではありません。連載第1回となる今回は、天皇と「元首」との関係について、法や歴史の観点から考えてみたいと思います。
▽政府の認識は「差し支えない」
政府としての認識はどうなっているのでしょうか? 「(天皇は)元首であるというふうに言っても差し支えない」というのが、これまでの最も踏み込んだ表現で、1988年の参議院内閣委員会で、内閣法制局第一部長が答弁しました。
もっとも、それまでも天皇は対外的に「元首」のように扱われていました。64年の東京五輪と72年の札幌五輪では昭和天皇が、98年の長野五輪では平成の天皇(現在の上皇)が開会を宣...